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第5章 3C論:思想の文明体コラボ協力理論

3C論(思想の文明体コラボ協力理論)

前章の2C論では、歴史学的な考証をもとにして文明の黎明期から確立期に至るまでの、新文明の成立を見てきました。本章では、現代社会に所与となっている様々な社会状況や科学技術を背景にした議論を展開していきます。

本章で論考していきたいのは3C論という理論モデルになります。

3Cというのは、Conceptual Civilization Collaboration(「思想の文明体コラボレーション」)もしくはConceptual Civilization Cooperation(「思想の文明体協力」)の頭文字をとって名付けました。後述しますが、このCollaborationとCooperationは同時かつ不可分に発生しますので、どちらか一つではなく両方が3C論にとって大切な要素になります。

現代社会において文明は思想でできている

さて、前編第1章では、文明の定義をいろいろと考察していきましたが、当然ながら現代社会においても文明というのは自明(当たり前)の存在とされています。つまり、現代社会においても、私たちのほぼ大半はどこかの文明に所属しているものとみられています。ただし、どのような人々がどのような文明に属しているかについては、議論がたくさんあるところです。本章でも「文明とは、価値の共有体制として人々の生活システムを包み込むもの」という文明の定義にもとづいて話を進めていきますが、だれがどのような文明に属しているか、それについて議論が百出してしまうのは、「価値」の存在は人々の脳内にしかないからです。なぜなら、なにか「価値のある」ものがあったとしても、それに対して「価値がある」と考えるのは人間の方です。人間が感じるその「価値がある」という感情・感想は、脳内をのぞくことができなければ確実に確かめることはできません。そのため、どのような人々がどのような文明に属しているかを判別するために、利便的に使用されているのが「思想」になります。そして、思想はテキスト(文字)とイメージとなって、それを見たり読んだりすることができるすべての人が理解されるようになっています。そして、世の中にはたくさんの思想があるものですから、誰がどのような思想に影響されているのかは一義的に判別することが難しく、そのために誰がどの文明に属しているのかも、多くの議論が巻き起こってしまうのです。

ここでいう「思想」とは、様々な人々が議論し蓄積された思考の体系・総体を意味します。ですから、例えば宗教やイデオロギー、社会的規範や法制度の類も「思想」の一種とみなすことができます。あるいはそれらは思想の産物とみることができます。そして、この思想によって、現代の様々な文明に生きる人々は、価値の決定を行っています。ですから、「文明とは、価値の共有体制として人々の生活システムを包み込むもの」という文明の定義に基づくと、現代社会においては「価値がある」とみられるものは、なにかしらの思想によって人々が決定しているわけですから、現代における文明は思想によってできていると換言することができるのです。なお、歴史学的に古代文明などに思想がなかったといえるかどうかは、大きな議論の余地があるところです。しかし、現代に比べればはるかに地理的独立性を保っていた古代文明は、自己の文明的なアイデンティティーをそれほど他の文明に比べることなく成立することができたとは少なくともいえると思います、そのことから、現代文明ほどに高度化された形で、文明を構成する思想を必要としなかったともいえるとも思いますし、また文明の基礎的な価値観は、地理的・物理的な制約をうけるため、その制約の枠内に存在する人間の中で不文律的・無意識的に共有することができたとも考えられます。

デジタル化する文明

一方で、今度は現代社会を基礎づけているテクノロジーサイドから、現代における文明の姿を見ていきたいと思います。先ほど、文明の中で人々の価値を決定する思想は何かしらのテキストやイメージとなって人々に理解されると述べました。そして、現代社会においては、そうしたテキストやイメージが、デジタル化されて伝播されることに大きな特徴があります。このデジタル化というキーワードは、それまでのどの時代にも見られなかったという点で、現代の特殊性を浮き上がらせてくれます。

デジタル化について、もう少しだけ詳しく解説しておきましょう。現代においては、テキストや音声や映像イメージは、電気信号に置き換えられて、電線(あるいは光ファイバー)の中を伝わっていき、ほぼ瞬時に別の場所に転送することができます。こうしたデジタルの仕組みを利用して、テレビやラジオ、インターネットはすべて成立しています。また、マスメディアの存在もデジタル化なしには語れません。マスメディアは新聞・テレビ・ラジオ・雑誌や本などの紙媒体などで情報を伝達する主体の総称ですが、こうしたマスメディアの仕事は、そのほぼすべてがデジタル化されたテキストやイメージによって支えられています。したがって、完成物は何かしらの物理的物体になっている場合でも、その生産プロセスにおいてデジタル化が決定的な役割を果たしているのです。

そして、前段で見てきたように、現代において文明は思想というフレームワークの形をとり、その思想はテキストやイメージの形となって、デジタル化されます。そして、そうしたデジタル化されたテキストやイメージは、テレビやインターネットやラジオや新聞や本となって私たちのもとに届き、日々その思想は教化されていく仕組みになっているのです。すべての、現代的な文明に共通する特徴は何かといえば、第一にこのデジタル化されたテキストとイメージにより支えられているといっても過言ではありません。

では、デジタル化するメリットとは何でしょうか?実はそれが、本章で提唱する3C論の決定的に重要な要素になってきます。

デジタル化するメリットとは、

1)瞬間的で物理的な範囲を飛び越えて情報の伝達が可能になること、

2)一度にたくさんの人々に情報を伝えらえること、

3)そして情報の複製とシェアが容易になること

です。

これらのデジタル化メリットによって、現代社会では、思想としてのテキストやイメージが

1)瞬間的に物理的な範囲を飛び越えて伝播すること。また地理的な境界線や、国境線に必ずしも制限されないこと

2)テレビやインターネット、マスメディアの存在によって、何万人何百万人という圧倒的な多数へ情報を拡散できるようになったこと

3)コピー機、録音録画、インターネットやSNSなどにより、情報の複製や共有が昔と違ってはるかに容易にできること

といったことが可能になりました。

そして、これらのことにより、3C論が成立する背景が出来上がり、現代版の新文明創立の条件が整っていくのです。

シェアされる思想と共感して動きだす人々

さて、ここまで見てきたデジタル化する文明とデジタル化のメリットによって、文明を構成する思想がシェアされることによって多くの人に広まっていく素地ができました。

そして、そしてここからが大事なのですが、 まるで深海で発生した地震が巨大な津波を引き起こすように、 テキストやイメージの形となってデジタル化した情報の伝達行為が、人々の移動と活動を活発化させる現象が現代では多く観察されるようになったのです。

筆者が概念として考えていたことを、ある意味非常に危険と思わせる形で、実際の世界で現象を認識させてくれたのは、イラク・シリア地域に発生したIS国(Islamic State)の存在でした。彼らの思想は前章の超価値に値するかどうかはここでは議論しませんが、しかしその影響度の大きさという意味では十分に本章の実証的な事例として引き合いに出しても良い事実を提示してくれています。

彼らの広報活動はインターネットを最大限に活用し、音声や動画を巧みに利用して、IS国への協力や参加を、全世界の人々に向かって無差別に呼びかけるものでした。ISのリクルーティングや資金獲得行為が、政府や団体などではなく、世界中に散らばる「同志」と呼ばれる個人をターゲットにしたことは、ある意味、時代の流れを鋭くとらえていたのではないかということができましょう。驚くべきことはIS国に自ら積極的に参加・協力した人々の国籍を見ると、何万人というレベルで彼らが敵文明と名指しで批判していた文明圏に属する人々がいたのでした。これらの人々は、自らの経済的・社会的地位を投げ捨てて、自発的にIS国に参加し、自らが所属していた文明への敵対的行為に勤しみました。彼らの動機を解明することは今後の歴史学的な債務ではありますが、表層的な情報だけで整理すると、デジタル化された思想が人々の予想を圧倒的に上回る形でシェアされていき、そしてそれらの情報に触れた一部の人が行動を開始し、それらの行動がうねりとなってさらにインターネット上に他地域連携とでも呼ぶような現象を作り上げたのです。一時期、ISは国家とも呼ぶべきような支配地域を作り上げ大きな勢いをふるって世界中の人々を驚かせました。他にも、最近のデジタル化された思想が巻き起こした社会現象はたくさんありますが、それらが国家のような体を一時的にもとるようになった事例として、IS国の事例は注目すべきことだと思います。同時に、こうしたことが良いことばかりでもないことも認識できる事例とも言えましょう。

さて、話を戻して、デジタル化された思想が人々を実際に動かし、社会現象をつくりだすことを見てきました。デジタル化が大きく進行した現代と、そうではなかった昔が圧倒的に違うことはそのシェアと連携の度合いです。デジタル化されたメリットによって、文明もまたデジタル化のメリットを享受するようになり、

1)瞬間的に物理的な範囲を飛び越えて伝播すること。また地理的な境界線や、国境線に必ずしも制限されないこと

2)テレビやインターネット、マスメディアの存在によって、何万人何百万人という圧倒的な多数へ情報を拡散できるようになったこと

3)コピー機、録音録画、インターネットやSNSなどにより、情報の複製や共有が昔と違ってはるかに容易にできること

といった文明の構成要素たる思想の影響度の進化・拡大化がそれまでの事例に類を見ないほどのスピードと規模間で達成されるようになったのです。

思想のデジタル文明体

さて、いままで見てきた事柄をまとめると、本章でテーマとなった3C論の概要が見えてくると思います。

まず、現代において文明を構成しているのは、思想とその思想の産物です。そして、その思想はどんどんデジタル化しております。また、現代社会において、デジタル化がもたらした情報革命の恩恵(メリット)は文明にも及びます。そして、デジタル化により昔よりも圧倒的に速く広範囲かつたくさんの人々に情報を送り届けられるようになった結果、現代文明には思想のデジタル文明体とでも呼ぶべき、思想でつながる人々がコラボレーションし、協力して行動を起こしていくという現象を観察できるようになりました。

この思想のデジタル文明体を作り上げるというのが、3C論の骨子になります。

3C論をもとにした新しい文明のつくり方は、そもそも多くの人々に訴求できるほどの文明的思想があることが前提になります。この点については2C論で議論しているので参照して下さい。

そして、その前提をクリアできる思想があるときに、それをテキストやイメージの形で表現し、それを人々に伝達する必要がありますが、その際にデジタル化してなるべく多くの人にシェアできるようにし、またはシェアされるように仕向けていく必要があります。ただし、ここでも思想の魅力は最低限の条件として出てくることになります。人は自分の興味を持てないことを、わざわざ自分の時間を使ってまで見てくれませんし、逆に自分が大きな関心を持てることには多少の困難があったとしても自ら進んでその困難を乗り越えて情報を受け取ってくれるものだからです。以上のような条件を満たし、デジタル化された思想がどんどんシェアされていくと、結果として思想の文明体が出来上がります。そして、思想の文明体と呼ぶべき大きさと影響度を持った時、人々はその思想に基づいて活動連携(collaboration)や協力行為(cooperation)を行うようになるのです。

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